嗚呼~かん違い2

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 このところ、誇り高い近衛師団出身のA爺さんは渡辺謙主演のハリウッド映画「硫黄島からの手紙」を見て以来、気分が戦時に逆戻りして高揚しています。診察室には「入ります!」といって両手を指先まで揃えて伸ばし、上半身を45度に定規のように曲げた礼をして入ってきます。診療の最中には「軍医殿にお世話になった事を思い出します。」、「栗林閣下を硫黄島にお送りし、私のような人間が生きながらえているのは慙愧にたえません。」等と繰り返しています。ある日の事、隣の処置室で採血を受けながら、X看護婦相手に戦争中の思い出を話しています。X看護婦は「へえ~なるほどね。」等と聞き流している様子ですが「硫黄島が落ちると我々もいよいよ覚悟を決めて海岸線にホンドボウエイ(本土防衛)の壕を作ったんだよ。」という話にX看護婦が応えました。

「ヘエ~戦争中も海辺でフォンドボウを作ったんですかあ?」A爺さんは一瞬何の事か分らなかったようですが、X看護婦がたたみかけるように「Aさんはフレンチのコックさんだったんですかあ~?」等と言うものですからいけません。さすがにX看護婦のかん違いに気づいたA爺さんは大声で「一体何ヲユウトルノカ!」と軍隊口調でご立腹です。X看護婦はA爺さんが何故怒り出したのか分らず困った様子です。

 

 

 

 その時私は隣の診察室で熊撃ちに行って崖から落ちて大怪我をしたBさんの治療をしていました。Bさんはある立派な会社の会長さんですが、かつて狩猟の自慢話をした際にX看護婦に「お仕事は“マタギ”ですか?」といわれて目をむいた経験があります。 数日前、その怪我した足の皮下出血で、牛乳ビン1本分の血の塊を取り出す手術をしたのですが、その最中に局所麻酔が切れてきて我慢強いBさんもさすがに堪え切れず「うっー」とうなり声をあげました。そこへ看護婦が「ここは野戦病院のようなものですから我慢です。」と妙な励まし?をしたものですからこれまたいけません。朦朧としたBさんは意識がすっかり戦地の傷病兵になり「痛ミヲコラエルタメ軍歌ヲ歌ッテヨロシイデアリマスカ」と軍隊調で申告したのです。思わず私も軍医調で「ウム、ヨロシイ!」と答えてしまいました。

まもなくBさんの♪♪火筒ずつの響き遠ざかる、後には虫も声立てず、吹きたつ風は生臭く、紅染めし草の色・・”という婦人従軍歌がクリニックに響き渡りました。待合の他の患者さんは何事かという顔をしていたようですが婆さん子の私も聞きかじったその歌を思いだし、共に軍歌を歌いながら小手術を終えたのでした。私はBさんに古き良き日本人?を見た思いがしました。

 

 

 

 さて今日は術後の傷の消毒に来院したそのBさんがベッドの上で隣のA爺さんとX看護婦のくだんのホンドボウエイ話を聞きながら口をへの字に結び、「ククッツ」と言いながら肩を震わせています。私は一瞬、X看護婦の返答に悲嘆して泣いておられるのかと思いましたが、よく見ると涙を流して笑いをこらえているのでした。

 

処置が終わると、「昭和も遠くなりましたなあ~。」と寂しそうに部屋を出て行きました。

 

 

 

 

 

 

 それにしても此の所クリニックが“よしもと”化しています。「どげんかせんといかん!」

 

 

 

理事長 弘岡泰正

 

 このところ、誇り高い近衛師団出身のA爺さんは渡辺謙主演のハリウッド映画「硫黄島からの手紙」を見て以来、気分が戦時に逆戻りして高揚しています。診察室には「入ります!」といって両手を指先まで揃えて伸ばし、上半身を45度に定規のように曲げた礼をして入ってきます。診療の最中には「軍医殿にお世話になった事を思い出します。」、「栗林閣下を硫黄島にお送りし、私のような人間が生きながらえているのは慙愧にたえません。」等と繰り返しています。ある日の事、隣の処置室で採血を受けながら、X看護婦相手に戦争中の思い出を話しています。X看護婦は「へえ~なるほどね。」等と聞き流している様子ですが「硫黄島が落ちると我々もいよいよ覚悟を決めて海岸線にホンドボウエイ(本土防衛)の壕を作ったんだよ。」という話にX看護婦が応えました。

「ヘエ~戦争中も海辺でフォンドボウを作ったんですかあ?」A爺さんは一瞬何の事か分らなかったようですが、X看護婦がたたみかけるように「Aさんはフレンチのコックさんだったんですかあ~?」等と言うものですからいけません。さすがにX看護婦のかん違いに気づいたA爺さんは大声で「一体何ヲユウトルノカ!」と軍隊口調でご立腹です。X看護婦はA爺さんが何故怒り出したのか分らず困った様子です。

 

 

 

 その時私は隣の診察室で熊撃ちに行って崖から落ちて大怪我をしたBさんの治療をしていました。Bさんはある立派な会社の会長さんですが、かつて狩猟の自慢話をした際にX看護婦に「お仕事は“マタギ”ですか?」といわれて目をむいた経験があります。 数日前、その怪我した足の皮下出血で、牛乳ビン1本分の血の塊を取り出す手術をしたのですが、その最中に局所麻酔が切れてきて我慢強いBさんもさすがに堪え切れず「うっー」とうなり声をあげました。そこへ看護婦が「ここは野戦病院のようなものですから我慢です。」と妙な励まし?をしたものですからこれまたいけません。朦朧としたBさんは意識がすっかり戦地の傷病兵になり「痛ミヲコラエルタメ軍歌ヲ歌ッテヨロシイデアリマスカ」と軍隊調で申告したのです。思わず私も軍医調で「ウム、ヨロシイ!」と答えてしまいました。

まもなくBさんの♪♪火筒ずつの響き遠ざかる、後には虫も声立てず、吹きたつ風は生臭く、紅染めし草の色・・”という婦人従軍歌がクリニックに響き渡りました。待合の他の患者さんは何事かという顔をしていたようですが婆さん子の私も聞きかじったその歌を思いだし、共に軍歌を歌いながら小手術を終えたのでした。私はBさんに古き良き日本人?を見た思いがしました。

 

 

 

 さて今日は術後の傷の消毒に来院したそのBさんがベッドの上で隣のA爺さんとX看護婦のくだんのホンドボウエイ話を聞きながら口をへの字に結び、「ククッツ」と言いながら肩を震わせています。私は一瞬、X看護婦の返答に悲嘆して泣いておられるのかと思いましたが、よく見ると涙を流して笑いをこらえているのでした。

 

処置が終わると、「昭和も遠くなりましたなあ~。」と寂しそうに部屋を出て行きました。

 

 

 

 

 

 

 それにしても此の所クリニックが“よしもと”化しています。「どげんかせんといかん!」

 

 

 

理事長 弘岡泰正

 

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