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放射線って絶対浴びちゃいけないの? ~でも、被爆するのって何かイヤですよねぇ~

No.17|2002年8月10日

あくまでも参考までにですが「被爆」に関する新しい考えを少しご紹介します。被爆が嫌だからエックス線検査を受けないという患者さんがごくまれにですがいらっしゃいます。何か理由があるのか伺ってみても「ただなんとなく体に悪そうだから」とおっしゃるのですが、それではこの方は全く被爆をしないで今日まで過ごしてきたのでしょうか?

 

実は私たちは毎日普通に生活しているだけで一年間におよそ2ミリシーベルトの放射線を全身に浴びているのです。これを「自然放射線」といって地球に生物が誕生するずっと以前から存在しています。この自然放射線の正体は、太陽やはるか宇宙から降り注いでいる宇宙線、地中深くのさまざまな放射性同位元素から出ている放射線、毎日の食べ物に含まれる物質からの放射線、および空気中のラドンからの放射線です。

 

体に受ける状況や線量率が違いますから、その影響は同じとはいえませんが、目安的に見るならば標準的な胸部エックス線検査の一回の被爆量がおよそ0.1ミリシーベルトですから、何もしなくても年間に20回程度胸部のエックス線撮影をしている計算になります。どうですか、意外に多いと思いませんか? このままでは人類は自然放射線によって滅びてしまうのではないかと心配になりませんか?

 

この問題に一石を投じたのが「放射線ホルミシス効果」の概念です。この概念はつい最近になって提唱されたものであり、1980年アメリカの トーマス・D・ラッキー教授(ミズーリ大学)らの研究によって、一度に大量の放射線を浴びる場合とは異なり、低線量の放射線は細胞の免疫機能を活性化させる効果があり、ガン細胞の増殖を抑える効果がある、とそれまでとは反対の概念が提唱されました。ラットによる実験では、放射線を全く浴びない環境が生物に与える影響を調べるものでしたが、結果はそれまでの予想に反して放射線を全く浴びない集団の方が、自然放射線を浴びている集団よりも生存率が短く、ガンの発生率も高かったというものでした。

 

これによりラッキー教授らは、自然放射線が存在する環境の中で進化を遂げてきた生物にとって、生体はその営みの中で低線量放射線による損傷から回復する術を身に付け、放射線より細胞の免疫機能を活性化してガン細胞などの増殖を抑える機能を備えたとの研究結果を報告しています。重要なのは、その量であり、少ない放射線は生体にとって有用な存在だが、大量の放射線は生体に重大な悪影響を及ぼすということです。

 

病気を治療したり体の調子を整えたりするための大切な薬にしても、その用量が大切で、誤って大量に使用すると体に重篤な害を及ぼすことがあります。これと同じだと思います。かといって皆さんに「どんどん放射線を浴びましょう」と言っているのではありません。年に一回の健康診断で早期の病気が見つかり、大事に至らずに社会復帰を遂げた例は数多くあります。反対に被爆を気にして健康診断や必要な検査を受けずに手遅れになってしまう例も数多くあります。あくまでも医療被曝は検査を受ける患者さんご自身の利益が放射線によるリスクを明らかに上回るときにのみ行われる行為であり、無駄な被爆は絶対に許されるものではありません。でもきちんと管理された医療機関で受ける画像診断で受ける医療被曝のリスクが、患者さんの利益を上回ることは絶対にないと私は思っています。

 

最後にエックス線検査をお受けになる際のお願いなのですが、診療や健康診断で胸部のレントゲン写真を撮る予定の方や希望なさる方は、Tシャツのような無地のシャツを1枚用意して来てくださると大変助かります。色は何色でも構いませんが、ボタンや金具、飾りの付いたもの、文字がプリントされているものは避けてください。体の組織に起きたほんの僅かな変化に比べるとボタンや金具ははるかにエックス線吸収が強く、障害陰影となって病変を隠してしまう可能性があるからです。

 

また、私たち放射線技師は、撮影の際かならず体を触ります。これは闇雲に触っているのではありません。腹部などを撮影する際、目的の臓器が何処にあるかは解剖学的には理解していますが、外から見ただけではわかりません。個人差があり体格によっても位置が異なるためです。外から触れることができる骨格の位置を確認することにより、目的の場所を特定するのです。また、腸管のガスの有無やその範囲を調べるために、打診をしてポンポンという音を聞くことがあります。こんなことをしなくても透視で見れば一目瞭然と思われるかもしれませんが、そのためにわざわざエックス線透視で被爆させるようなことは普通はしません。できる限り被爆を少なく抑えて、いかに多くの情報を的確に得ることができるかを検討することが診療放射線技師の役目のひとつだと考えます。

 

おわり。

 

診療放射線技師 青野

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