割股尽孝

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 最近、認知症の専門病院に長い間入院していた母が亡くなりました。偶然臨終に立ち会う事が出来、既に意識が遠のいた母のまだぬくもりのある手を握りながら次第に弱まって行く呼吸と消え行く脈を触れつつ母の耳元に精一杯の感謝の言葉を伝える事が出来た事は私にとってせめてもの救いでした。父の死後、田舎の広い家に母を一人で住まわせていましたが、忙しさにかまけて盆・正月の帰省時のみに顔を合わせていた数年の間に認知症が発症していたのです。消え行く記憶を一人で苦しんでいた様子を自ら鼓舞して新聞広告の裏に書きとめた膨大な量のメモ紙を発見したのは随分後の事でした。母の孤独感や薄れる記憶への不安をかまう事ができず放置していた事を思うと今更ながら心が痛みます。

 

 

 

 親が子に注いでくれた愛情とエネルギーに対して応分の孝行を年老いた親に返す事の難しさをつくづく感じています。外来で老母の介護を仕事を犠牲にしながら兄弟で頑張っている患者さんや、車椅子の親を励ましながら受診される家族をみると本当に頭が下がります。昔、「戸締り用心、火の用心」と子供達の歌に合わせ高見山が纏を振る船舶振興会のコマーシャルがありましたが「1日1善」「人類皆兄弟」を謳い、自らの親孝行ぶりを母を背負った銅像にしてビルの前に立ててしまった創業者の笹川良一さんは親孝行のホームラン王です。

 

 

 

 最近、中国人の友人から「割股尽孝」という4字熟語を教えてもらいました。

少子化の時代に股の間からこの世に出てきて親孝行だという意味ではありません。尽孝とは親への孝行を意味し母と父への孝の二つのバージョンがありますが「割股」とは自らの股の筋肉を切り取るという強烈な意味があります。母編は中国の隋の時代の話で忠孝の心の厚い陳公果仁という後に政府高官となった役人の逸話です。実母を早くに亡くし常に恩に報いる事を心がけていましたが継母が重い病気になった時、栄養をつけさせるため八方手を尽くしましたが貧しい為にひとかけらの肉も手に入れる事が出来ませんでした。そこで自分の股の筋肉を切り、スープを作って食べさせた処、継母の病気が治ったという話です。これほどの親孝行はしたくても出来るものではありません。

 

 

 

 さて翻って現代のわが国を見ると、小鳩が母鳩の脛をかじらせてもらって「子育て支援」などと言っています。あまり肉付きも良さそうな脛ではなさそうなので古事に習い子鳩は割股でもして栄養をつけて差し上げれば良かったのですがひたすら能天気に長年母鳩の脛を齧るかしゃぶるかしていたのでしょう。これに勝る親不孝はありませんが宇宙人だから許されるのでしょうか。せめてかじられた脛のために歩けなくなった老母を笹川さんのように背負って音羽御殿の庭を歩いて見せたら少しは支持率が上がるかもしれません。

 

 

 

 

理事長 弘岡泰正

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