嗚呼~かん違い

 90歳を超えたK婆さんは、此の所めっきり耳が遠くなり、外来での話しも一方通行になりがちです。そこで私は彼女専用の補聴器を作りました。サランラップの芯の先に尿コップの底を通してラッパ状にしたものですが、これがなかなかの優れものです。尿コップの口を彼女の耳にフィットさせて話をすると、良く聞こえるとみえてK婆さんも嬉しそうです。

 

 

 ある日の事、上機嫌で私に言いました。「先生、今日は調子がいいので “ロカビリー”に行ってもいいかい?」 隣でこちらに聞き耳を立てている I 先生が一瞬椅子からずり落ちる気配がありました。・・・その昔、日劇ウエスタンカーニバルなる催しのロカビリーに兄ちゃん、姉ちゃんが熱狂し、ギターを弾きながら腰をくゆらせ歌うミッキーカーチスや平尾昌晃の舞台に、女性客からトイレットペーパーやパンテイが投げ込まれた…との報道に、当時小学生ながら憂国の士だった私は「実に嘆かわしい!! 日本の道徳心はどこに行ったのか?」と憤慨した事を思い出しました。

 

 

 逆算すると、当時K婆さんは分別ある40歳頃のはずで、「ロカビリー世代」とは思えません。また、最近歌舞伎町あたりで「高齢者ロカビリー大会」が開かれているという噂も聞きません。私は困惑しながらも、その日がK婆さんの理学療法の日だった事を思い出し、補聴器を通して「ロカビリーじゃなくてリハビリじゃないの?」と言うと、K婆さんは気が付いたのか少女のような恥じらい上目使いで、小さく 「 はい 」 と答えました。

 

 

K婆さんはその後も週一度、理学療法室で杖を片手にロカビリーに励んでいます。

 

 

 

 

 ここだけの話… ヒロオカクリニックの勘違いは、実はこんなものではありません。  

 

   第二話をお楽しみに…。

 

 

 

理事長 弘岡泰正

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