目覚まし時計

私の起床時間は午前5時です。以前は6時だったのですが故ピータンの世話のため5時起きとなり、それが習慣となってしまいました。冬の間はまだ真っ暗で、うっかり寝過ごす事もありました。そこで目覚まし時計を買う事にし、時計屋さんを見て回ったのですが、お子様用や乙女チックな物ばかりで「男は朝から気合ぜよ!」をモットーの私には気に入ったものがなく諦めていました。

 

ある時、新聞で“自衛隊起床ラッパ目覚まし時計”の広告が目に入りました。最近の通販製品の多くは良く見ると小さく韓国製、中国製等と記載されていますが、この時計には堂々と日本製の印字です。私は軍国主義者ではありませんが帝国海軍の「定刻の5分前には準備を整え、定刻と同時に作業を始められる状態にしておく“5分前精神”」を旨としており、“5分後精神”の家内と長年の間、時間バトルを繰り返して来ましたが、汽車・飛行機の出発に乗り遅れる事は序の口の時間にルーズな精神を叩き直すには少し手遅れかもしれませんがもってこいのツールと確信しました。
長年待ち望んでいた夢が実現しそうな目覚まし時計に出会った慶びに胸躍らせ、早速にファックスで注文したのです。

 

数日してややお高い7千円也の時計が届きました。小ぶりのかぼちゃほどのサイズの目ざまし時計は起床ラッパの他に攻撃型ヘリコプターの爆音、榴弾砲の射撃音、戦車の走行音と色々なバージョンに換えられます。フランシス・コッポラの「地獄の黙示録」でワグナーのワルキューレの騎行をかけながらヘリコプターの編隊が飛行するシーンや日露戦争の時、ロシア軍の総攻撃で現地の参謀本部が殺気立会って大混乱の中、総司令官の大山巌がぬーっと入って来て「児玉さあ、今日は朝から大砲の音がうるさかごわすが、どこかで戦(ゆっさ)がごわすか」と聞いて一瞬皆あっけにとられ緊張が解け、勝利につながったという私の好きな逸話を思い出し、ヘリの飛行音や榴弾砲の射撃音にしようかとも思いましたが自民党の石破シゲルチャンの様な軍事オタクではないので兵器音の目覚ましは止める事にしました。という訳で起症ラッパを5時にセットして床に就いたのです。

 

翌朝5時に思った以上の大きな音で起床ラッパが鳴り響きました。テポドンが飛んでこようがデコポンが飛んでこようが起きそうもない隣の家内はびっくり飛び起き「何?なに?」と叫びながらベットから転げ落ちそうになりました。知らせていなかった泊り客が下の階からあわてて「何事ですか!大丈夫ですか?」等と言いながらあわてて階段を上がって来ました。
カーテンを閉めた暗闇で目覚ましをオフにしようとしましたが手さぐりでボタンが良く分からず、起床ラッパはしばらく高々と鳴り響いています。そのうち道路を隔てたマンションの戸がガラガラと開く音がしました。何という事でしょう。ご近所さんまで起床させてしまったのです。

 

早速、近隣諸家の警戒感を煽るだの、急激な覚醒は心臓に悪く私達の将来に禍根を残す事になりかねない等と集団的自衛権なみの我が家を二分する議論が沸き起こりました。
その結果、何事にも柔軟な私は反対意見を全面的に受け入れ、モットーの“5分前精神”で4時55分に頑張って起床して目覚ましのセットをオフにする事にしました。そして床の中で10分程待機し、“5分後精神”の家内の耳元に「そろそろお時間です」と優しくささやくのです。

せっかく買った目覚まし時計なのに、私が人間目覚ましになるなんて…この先思いやられます。

 

 

理事長 弘岡泰正

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