黄色いしっぽ

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 寒い朝の出勤途中の事です。自宅から駅までの道をいつものように少し気取って歩いていると後ろから小走りのヒールの音と共に「すみませ~ん」と言う妙齢の女性の声がします。思わず振り返って見ると見知らぬ女性が息せき切って立ち止まり、「お腰にシッポが!」と笑顔で私に告げ終わると駅の方へ映画「第3の男」のラストシーンの女優の如くかっこよく立ち去って行きました。

 

 

 一瞬何事かと思いましたが体をねじって腰に目をやりビックリです。だらしなく垂れたコートのベルトに引っかかった黄色いネクタイをシッポの様に引きずりながら歩いていたのです。前夜酔っ払って帰宅し、椅子に放り投げたコートの上に置いたネクタイがずり落ちてベルトに巻きついていたのでしょう。遅刻気味であわててコートを羽織って家を出たのがいけませんでした。

 

 

 元来小生は「あの人は頭の後ろに櫛を入れた事があるのかしら?」と義母に言われたほど身なりに無頓着ですが今回ばかりは赤面ものでした。恥ずかしくて先を行く美人に会わせる顔が無く、わざと遅れてゆっくりと歩きました。

歩きながら、自分も認知症の初期症状がでたのではないか?と少し心配になったり、歳をとってももう少しダンデイーに生きねば等と反省しましたが次第に腹が立ってきました。そもそも一家の主人が家を出る時は江戸時代の様に家人が三つ指ついて「お勤めご苦労さまです。行っていらっしゃいませ。」と送り出せば、シッポの恥をかかなくても良かった筈です。今年度から我が家も構造改革を断行し、ご主人様の出勤の折には「三つ指つき」でも「火打ち石」でも良いからきちんとした作法で送り出すよう家人に提案しましたが即、却下されてしまいました。あとはもう本人が気合を入れて医者として恥ずかしくない様に誰から見られても一部の隙もない身なり、所作を頑張るしかありません。

 

 

 しかしながら気合を入れて電車に乗り込んでみると私に目を向ける人など誰もいません。老若男女みな携帯電話を見つめ無言の行で、互いに超!無関心です。ガタン・ゴトンと車両の音だけが響きます。そこへ「次は○○~」とくぐもった車掌の声も葬儀屋のアナウンスの様で、乗客一同、位牌を持って合同慰霊祭に向かうご遺族様のようにも思えたのですがこれがアベちゃんの言う「美しい日本」の朝の通勤の景色なのでしょうか?

 

 

 

理事長 弘岡泰正

 

 

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